「子どもがB型肝炎ワクチンを打つ予定なんだけれど、後遺症がでる危険性はあるの?また、万が一、後遺症がでた場合、そのための救済制度は用意されているの?」
B型肝炎ワクチンには、アナフィラキシーショック、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎等の重篤な健康被害が生じることが稀にあると報告されています。
万が一、このような健康被害が生じた場合であっても、予防接種健康被害救済制度による給付を受けることが可能です。
本記事では、
- B型肝炎ワクチンの概要
- ワクチンの副反応や後遺症
- 予防接種健康被害救済制度
について、弁護士が解説します。
B型肝炎ワクチンとは?
まずは、B型肝炎の概要や、B型肝炎ワクチン接種が始まった経緯、B型肝炎ワクチンの定期接種化について解説します。
(1)B型肝炎とは?
B型肝炎とは、ウイルス性肝炎の一種であり、B型肝炎ウイルスに感染することで発症する肝臓の炎症性疾患のことをいいます。
B型肝炎ウイルスへの感染は、短期間の感染におわる一過性感染と、長期間にわたり感染状態が継続する持続感染に分かれます。
B型肝炎ウイルスは血液や体液を媒介として感染するウイルスであり、感染経路としては、母子感染、父子感染等の家庭内感染、注射器の使いまわしによる感染、B型肝炎ウイルス感染者との性交による感染等があります。
(2)B型肝炎ワクチン接種が始まった経緯
1985年以前は、母子感染が最も有力なB型肝炎ウイルス持続感染の原因でした。出産時に母親の血液を浴びたり、胎児の段階で母親の血液が混入したりすることによって、母子感染が起こります。そして、HBe抗原陽性の母親が出産する場合、そのままでは、ほぼ100%の割合で子に母子感染し、そのうち80~90%が持続感染してしまいます。
このようなB型肝炎ウイルスの母子感染を防止するため、1986年、旧厚生省は「B型肝炎母子感染防止事業」を開始し、HBIG(抗HBヒト免疫グロブリン)とB型肝炎ワクチン(HBワクチン)による予防処置を開始しました。
1986年当初は、HBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の妊婦から出生した新生児のみを対象としていましたが、1995年から、適用対象が拡大化され、HBs抗原陽性かつHBe抗原陰性の妊婦から出生した新生児も対象となりました。
(3)B型肝炎ワクチンの定期接種化
1986年のB型肝炎母子感染防止事業の開始により、新生児におけるB型肝炎ウイルス持続感染者の発生状況は約10分の1まで激減したと報告されています。
もっとも、B型肝炎ウイルスは、日常生活でも感染する可能性のあるウイルスであり、家庭内感染や性行為等による感染を防止する必要もありました。
そこで、2016年10月1日から、母親がB型肝炎ウイルスに感染しているか否かを問わず、新生児に対してB型肝炎ワクチンの定期接種が開始されるに至りました。
対象となるのは、2016年4月1日以降に生まれた0歳児で、1歳になる前に3回の接種が行われます。
参考:B型肝炎ワクチンの定期接種が始まります!保護者の方に知っていただきたいこと|厚生労働省
B型肝炎ワクチンの副反応は?
B型肝炎ウイルスの感染を防止するため、B型肝炎ワクチンの定期接種が開始されました。もっとも、B型肝炎ワクチンを接種することによって副反応が出る場合があることが報告されています。
(1)副反応が起きる場合がある
報告されているB型肝炎ワクチンの副反応の代表例は次のとおりです。
- 注射部位のはれ、しこり、痛み、熱感
- 発熱
- 吐き気、嘔吐
- 胃もたれ、食欲不振
- 全身倦怠感
- 関節痛、筋肉痛
(2)稀に重篤な健康被害が生じる
B型肝炎ワクチンには上記の代表的な副反応のほか、まれに重篤な健康被害が生じることも報告されています。
具体的には、アナフィラキシーショック様症状(血圧低下、呼吸困難、顔面蒼白等)、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、脊髄炎、視神経炎、ギラン・バレー症候群、末梢神経障害等が報告されています。
これらの重篤な健康被害が生じることは稀ですが、上記のような症状が生じた場合には、ただちに医師に申し出る必要があります。
ワクチンの後遺症(健康被害)に対する救済制度
万が一、B型肝炎ワクチンによって重篤な健康被害が生じ後遺症が残ってしまった場合であっても、定期の予防接種による健康被害が生じた場合の救済制度が用意してあります。
ここでは、予防接種後健康被害救済制度について解説します。
(1)予防接種法による予防接種健康被害救済制度
B型肝炎ワクチンは、予防接種法2条2項12号に該当するA類疾病として、同法に基づいて定期の予防接種が行われています(予防接種法5条1項、2条4項1号)。
予防接種法15条1項により、「定期の予防接種」等を受けた者が、疾病にかかり、障害の状態となり、または、死亡した場合で、これらの疾病等と定期の予防接種等を受けたこととの間に因果関係があると厚生労働大臣が認定したときには、医療費等の給付が行われるとされています。
つまり、B型肝炎ワクチンを接種して健康被害に遭われた方については、厚生労働大臣による因果関係の認定を受けることを条件として、この予防接種健康被害救済制度によって、医療費等の給付を受けることができます。
以下は、給付の具体的内容となります。
給付額(令和3年4月現在)
臨時接種及び A類疾病の定期接種 | B類疾病の定期接種 | |
---|---|---|
医療費 | 健康保険等による給付の額を除いた自己負担分 | A類疾病の額に準ずる |
医療手当 | 通院3日未満(月額)3万5000円 通院3日以上(月額)3万7000円 入院8日未満(月額)3万5000円 入院8日以上(月額)3万7000円 同一月入通院(月額)3万7000円 | A類疾病の額に準ずる |
障害児養育年金 | 1級(年額)158万1600円 2級(年額)126万6000円 | |
障害年金 | 1級(年額)505万6800円 2級(年額)404万5200円 3級(年額)303万4800円 | 1級(年額)280万9200円 2級(年額)224万7600円 |
死亡した場合の補償 | 死亡一時金4420万円 | ・生計維持者でない場合 遺族一時金737万2800円 ・生計維持者である場合 遺族年金(年額)245万7600円(10年を限度) |
葬祭料 | 21万2000円 | A類疾病の額に準ずる |
介護加算 | 1級(年額)84万4300円 2級(年額)56万2900円 |
(2)申請から給付までの大まかな流れ
申請から給付までの大まかな流れは以下のようになります。
【まとめ】B型肝炎ワクチンで後遺症などの健康被害を発症すると救済制度が受けられる
本記事をまとめる以下のようになります。
- B型肝炎ワクチンは、B型肝炎ウイルスの母子感染を防止する目的で開始された
- 現在、母親がB型肝炎ウイルスに感染しているか否かを問わず、新生児に対するB型肝炎ワクチンの接種が定期接種の対象とされている
- B型肝炎ワクチンには、注射部位の腫れや発熱等の副反応が報告されており、稀に、重篤な健康被害が生じることも報告されている
- B型肝炎ワクチンで健康被害に遭われた方については、予防接種健康被害救済制度による給付を受けることができる可能性がある
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